国立大学法人東京海洋大学 様

Starlink、intdash を用いた船舶遠隔オペレーション能力の研究

intdashと視線計測、Starlinkの組み合わせによる研究基盤構築

プロジェクト概要

国立大学法人東京海洋大学は、公益財団法人日本財団の助成により一般財団法人日本船舶技術研究協会が実施している「MEGURI2040に係る安全性評価」事業において、無人運航船の社会実装に向けた安全性評価および社会基盤整備の一環として、遠隔オペレーターの能力要件構築を目指す研究を実施しています。この研究で、リアルタイム及びリプレイモニタリングを実現するためにintdashが採用されました。

プロジェクトの背景と課題

日本は少子高齢化と労働力不足の課題に直面しており、海事産業でもこれらへの対策が求められています。こうした背景のもと、日本財団は2020年2月、「無人運航船の実証実験にかかる技術開発助成プログラム(MEGURI2040)」を開始し、日本船舶技術研究協会は2020年6月から「MEGURI2040に係る安全性評価」事業を開始しました。

無人運航船の実用化には、無人運航システムが航海士が操船する場合と同等以上の安全性能を備えることが不可欠です。また、オペレーションの遠隔化に伴い、遠隔オペレーターにも、その安全性を十分に担保できる技能が求められます。

東京海洋大学の研究では、intdashを活用して遠隔オペレーションモニタリングシステムを構築し、船上での操船と遠隔オペレーションの比較実験を行いました。この実験を通じて、遠隔オペレーターに必要な能力要件や無人運航船の安全運航を支える通信技術の要件について検討し、実船を用いた実証実験も実施しました。

汐路丸

練習船 汐路丸と船内操舵機器

また、これらの目的を十分に検証するために、今回の実験システムでは、海洋上での安定したリアルタイム通信を実現する最先端技術が求められました。さらに、遠隔オペレーションには、従来の航海機器であるECDIS(電子海図情報表示システム)や動力機関インジケーターに加え、船舶の位置情報や操舵室、船外の状況をリアルタイムで把握できる映像・音声モニタリングも必要です。このように、多様で大量のデータを効率的にオペレーターに伝送する仕組みが、今回の実験システムに求められる基本要件となりました。

プロジェクトのシステム概要

沖合での通信にはStarlink衛星通信を活用し、マルチモーダルデータを扱いながら高効率のデータ伝送を実現するintdashをクラウドデータ収集基盤として導入しました。これにより、船舶のリアルタイム監視とリプレイ実験システムが構築されています。

システム概要図

システム構成図

視線計測装置EMR-9

視線計測装置EMR-9

さらに、遠隔オペレーターの能力評価においては、株式会社ナックイメージテクノロジー社製の視線計測装置EMR-9を使用し、オペレーター画面の視線頻度を計測しました。このデータを基に、遠隔オペレーションと船上での操船との相関評価も行っています。

以上のように、遠隔オペレーションの能力要件の検討に必要な実験基盤を構築し、リアルタイム・リプレイモニタリングシステムを実現しています。

リアルタイム・リプレイモニタリングシステム

リアルタイム・リプレイモニタリングシステム

今後の展望

今後の展望について、本件の研究者である東京海洋大学の村井康二教授にお伺いしました。

村井教授

東京海洋大学 海事システム工学部門
村井康二 教授

Q. MEGURI2040プロジェクトにおける今後の展望を教えてください

無人運航船の実用化に向け、さらなる技術開発や社会受容性の向上が進められています。特に遠隔オペレーターに操船権がある前提では一定の経験が求められるため、今後は航海士のキャリア年数をパラメータに設定し、被験者数を増やしながら能力要件の多角的な検証を進めることも必要だと考えています。

Q. 今回の遠隔モニタシステムが他に活用できる場面はありますか?

教育的観点での活用も展望として挙げられます。例えば、東京海洋大学では、船舶職員の育成を使命としていることから、無人運航の実用に向けた時代背景を考慮し、学部実験や演習に遠隔監視実習を取り入れるアイデアがあります。船上実習と連携した授業プログラムを通じて、状況認識訓練や遠隔操船サポートに役立てることが、今後の海技者育成に意義をもたらすと考えられます。

Q. 将来の研究展望があれば教えてください

私はこれまで、船舶の操縦時における心的負荷や操船者の感性の研究を行ってきました。例えば、今回のように視線や心電といった生理指標を活用した評価です。さらに、新しい指標つくりとして唾液成分の活用も検討してきました。

また、intdashの双方向通信機能を用いることで、遠隔操船の技術的な実現が可能であり、これまでに活用している緊張モニタリング評価手法と組み合わせて、遠隔オペレーターが感じるストレスを測定・研究することも、将来的に興味深い研究テーマの一つと考えています。